正方行列 \(A\) に対する指数行列を次で定義する。
\[\sum_{k=0}^\infty \frac{1}{k!} A^k\]この行列は \(e^A\) もしくは \(\exp A\) と表現する。
この行列無限級数は任意の行列 \(A\) で収束する。
証明には行列のノルムにおける劣乗法性と、絶対収束する行列無限級数の収束性を用いる。
\[\sum_{k=0}^\infty \|\frac{1}{k!} A^k\| \leq \sum_{k=0}^\infty \frac{1}{k!} \|A\|^k = e^{\|A\|}\]よりOK。この不等式より \(\|e^A\| \leq e^{\|A\|}\) もわかる。
指数行列は指数関数と異なり \(e^{A}e^{B} = e^{A+B}\) が常には成立しない。これが成立するためには $A$ と $B$ の可換性 \(AB = BA\) が必要となる。
これの特別の場合として、\(s, t \in \R\) のとき \(e^{sA}e^{tA} = e^{(s+t)A}\) が成立する。
証明: 可換な行列の指数行列
\(O\) を \(n \times n\) の零行列とすると、\(e^O = I_n\) である。これは定義より自明であろう。
\(e^A\) は常に正則で、逆行列は \(e^{-A}\) と表せる。
これは、\(A\) と \(-A\) が可換であることを用いて、\(e^{-A}e^{A} = e^Ae^{-A} = e^O = I\) よりわかる。
指数行列は線形微分方程式と深い関係がある。 $n \times n$ 行列 $A$ に対して次の $n$ 次元の線形微分方程式を考える:
\[\frac{dx}{dt} = Ax\]ただし \(x \in \R^n\) で初期条件は \(x(0) = x_0\) とする。
すると、\(t \in \R\) に対して \(x(t) = e^{tA} x_0\) はこの微分方程式の解となる。